特殊建築資材が人体に与える影響

堀井大輔(大阪電気通信大学) 竹内早耶香(びわこ学院大学) 豊田一成((社)感覚刺激と脳研究協会)

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■【PDF版】特殊建築資材が人体に与える影響 ・堀井大輔(大阪電気通信大学)・竹内早耶香(びわこ学院大学)・豊田一成((社)感覚刺激と脳研究協会) 2017/12/24

1.はじめに

日常生活において,居住やビルなどの建築物内で過ごす時間は,屋外で過ごす時間に比べて非常に多いため,室内の環境が健康へ与える影響が問題となっている.生活環境に係る健康問題は,その発生原因の特定が難しいことが多いが,生活環境の中にある家具や壁などの物理的材料から放散される数千種類以上の化学物質が,室内を汚染していることがひとつの要因と考えられる1).

小川ら(2009)は,調湿建材を内装に使用した場合の人体への影響を検討し,唾液中のアミラーゼ濃度の測定値を比較した結果,調湿建材の方が低い傾向を示しており,直接的な物理的影響とは断定出来ないものの,何らかの影響をえている可能性はあると報告している.

このように室内環境に使用される素材によって,人体へ与える影響も異なることから,室内で健康に過ごせる素材の開発には期待が寄せられている.

そこで本研究では,ある建築資材「特殊処理を施した水(商品名:力丸)を使用したコンクリート及び特殊処理を施した土(商品名:底力)」が身体にどのような影響を及ぼすのかを調べるため,安静時と経過15分後の自律神経活動の変動と唾液α-アミラーゼを測定して検討することを目的とした.

2.方法

1)実験対象者
 本実験内容を説明し,協力に同意が得られたA大学の運動部に在籍する男子学生21名(平均年齢19.68±0.99歳)を対象とした.彼らは継続してスポーツ活動をしている健康な大学生であった.

2)実施時期・場所および手続き
2017年3月,アイアイリゾートにおいて,室内の中央に椅子を置き,A室の椅子の下部へはある建築資材「特殊処理を施した水(商品名:力丸)を使用したコンクリート及び特殊処理を施した土(商品名:底力)」を設置し(素材あり群),B室の椅子の下部へは同形・同量の通常のコンクリート・土を設置した(素材なし群).

入室前に通常時の状態を測定(測定3分~5分)した後,椅子の置かれた部屋へ入室して着座し,何もない部屋で開眼のまま安静状態を確保し,着座5分後に1回目の測定,15分後に2回目の測定を行った.
実験対象者には,A室とB室の違いを伝えずに両方で同じ時間だけ過ごし,その後同様の測定を実施した.なお,順序効果による影響を考慮して,A室とB室の実施順序については,実験対象者間でカウンターバランスがとられた.A室(およびB室)の測定後に,1時間の十分な休息を挟んでからB室(およびA室)の測定を行った.

3)測定項目
(1)指尖脈波
指尖脈波からの自律神経活動について,心拍変動はPulse Analyzer Plus(TAS9:株式会社YKC製)を用いて心拍数を求めるとともに,周波数解析から高周波成分(HF,0.15~0.4 Hz),低周波成分(LF,0.04~0.15 Hz),成分比(LF/HF)等を算出し検討する.
(2)唾液α-アミラーゼ
 乾式臨床化学分析装置・唾液アミラーゼモニター(ニプロ株式会社製)を用いて,唾液アミラーゼ活性について,1分間に1μmolのマルトースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位(U)として測定し検討する.

4)分析
本研究では,TAS9で測定できるパラメーターのうち心拍変動の時間領域分析により心拍数(HR:Heart Rate)と,周波数領域分析により総自律神経活動(TP:Total Power),高周波数成分(HF:High Frequency),LF/HF比を自律神経機能の評価値として検討を行った.なお,分析には対数変換された値(Ln値)を用いた.

まず全体的傾向を知るために,事前(安静時)・事後(15分後)の測定値を比較する.次に,個人内の変化が素材の有無によるものなのかを検討するため,事前・事後の測定値の変化パターンを素材あり群と素材なし群とで比較する.この比較について,生理指標となる自律神経活動や唾液αアミラーゼは,個体差が大きいことから安静時を基準とした比率(安静時÷15分後)を用いて行う.安静時を個人ごとのベースラインと捉え,15分後の測定値にどの程度の変化が生じたのかを検討する.

なお,データの集計と分析にはエクセル統計2015を用い,外れ値検定の結果から採用されたデータについて,その後のt検定と分散分析を行った(有意水準p<0.05).

3.結果

1)自律神経活動動態
実験対象者の指尖脈波からの心拍変動を自律神経活動動態として評価した.
実験対象者の心拍数(HR),総自律神経活動(LnTP),高周波数成分(LnHF)を測定し,交感神経活動指標(Ln(LF/HF))を求めた結果を表1に示した.

実験群の心拍数(HR)は, 素材あり群で安静時60.05±10.30に比べて15分後は63.41±11.57へ増加し,素材なし群で安静時60.32±11.46に比べて15分後は64.16±10.55へ増加していた.(表1)
 安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意に増加していた(p<0.05).また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいても両群ともに効果量大であった(d>=0.8).(表1)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表2)(図1)

心拍変動の周波数分析から求められた総自律神経活動(LnTP)は,素材あり群で安静時7.69±0.51に比べて15分後は7.73±0.60へ増加し,素材なし群で安静時7.79±0.60に比べて15分後は7.82±0.61へ増加していた.(表1)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいて,両群ともに効果量はほとんどみられなかった(d<0.2).(表1) なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表2)(図2) 副交感神経活動指標とされるLnHF値は,素材あり群で安静時6.21±0.78に比べて15分後は6.38±0.73へ増加し,素材なし群で安静時6.36±0.84に比べて15分後は6.31±1.00へ減少していた.(表1) 安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群で効果量小(d>=0.2)であり,素材なし群では効果量はほとんどみられなかった(d<0.2).(表1) なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった(表2).しかし,表1と図3のように素材あり群では増加がみられることから,副交感神経の活性化の傾向が伺える. 交感神経活動指標とされるLn(LF/HF)値については,素材あり群で安静時1.11±0.05に比べて15分後は1.10±0.08へ減少し,素材なし群で安静時1.12±0.08に比べて15分後は1.15±0.12へ増加していた.(表1) 安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群と素材なし群の両群ともに効果量小(d>=0.2)であった.(表1)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった(表2).しかし,表2と図4のように素材あり群では減少がみられることから,交感神経の抑制化の傾向が伺える.(図4)






2)唾液α-アミラーゼの変化(表3,4.図5)
ストレスの大きさの指標とされる唾液α-アミラーゼの値を測定して分析する.
素材あり群で安静時25.90±15.52に比べて15分後は18.80±13.03へ減少し,素材なし群で安静時25.80±21.17に比べて15分後は21.65±14.53へ減少していた.(表3)

安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群では有意に減少していたが(p<0.05),素材なし群では有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群では効果量大(d>0.8)であり,素材なし群では効果量小(d>=0.2)であった.(表3)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった(表4).しかし,表3や図5のように素材あり群では減少がみられることから,15分後に向かってストレス軽減の傾向が伺える.



消化酵素のひとつである唾液アミラーゼ(唾液中のα-アミラーゼ)は,刺激に対する交感神経興奮状態の強さ度の目安になる指標である.交感神経が刺激され興奮状態になると,神経作用により唾液アミラーゼが分泌され,より高い興奮状態になると活性値が高まると考えられる.
有意差のみられなかったことについては,素材の有無や経過時間によって,測定値が上昇した被験者と低下した被験者とが混在している可能性が考えられる.
とくに,表3と図5では,全体の平均値の時間経過よりも変化率の平均の方が大きくなる現象もみられた(表の数値と図の変化が逆になっている).

4.まとめ

運動部に所属する大学生を対象として,素材の有無による影響の違いについて検討した結果,素材に体を近づけ続けた15分後にLnTP値,LnHF値の上昇傾向がみられた.つまり,時間の経過によって,総自律神経活動(LnTP)と副交感神経活動(LnHF)を高める効果が示めされた.

LnHF値の変動からは,副交感神経活動の上昇による精神的リラックス作用が考えられ,またLn(LF/HF)値の変動からは,15分後に交感神経活動が減少していることから,時間の経過によって興奮を抑制する作用があると考えられた.
さらに,素材に体を近づけ続けた15分後にアミラーゼが減少していたことから,交感神経興奮作用の抑制やストレス軽減の傾向が推察された.

以上の結果から,このブロック建材は,時間経過によって副交感神経を高め,身体的ストレスの軽減と精神的リラックス作用が期待できると考えられた.

付記
本研究は,(株)プラスワン テクノロジーからの研究助成を受けて行われた.

5.参考文献

1)嵐谷 奎一・秋山 幸雄・欅田 尚樹(2009) 室内環境に関する研究. 室内環境,Vol.12 No.2:71-86.
2)李 宙営・朴 範鎮・恒次 祐子・香川 隆英・宮崎 良文(2011)  森林セラピーの生理的リラックス効果―4箇所でのフィールド実験の結果―. 日本衛生学雑誌,Vol.66 No.4:663-669.
3)中野 敦行・山口 昌樹(2011) 唾液アミラーゼによるストレスの評価.  バイオフィードバック研究,Vol. 38No.1:3-9.
4)小川 晴久・中村 誠・福田 弥生・柴原 数雄・西垣 康広・伊藤 国億・成瀬 哲哉・藤巻 吾朗・松井 永子・折居 建治・近藤 直実(2009) 調湿建材の使用が室内環境及び人体に与える影響調査に関する研究. 室内環境,Vol.12 No.2:125-131.
5)山口 昌樹・金森 貴裕・金丸 正史・水野 康文・吉田 博(2001)  唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか.  医用電子と生体工学, Vol.39 No.3:234-239.