特殊土壌内で生育の観葉植物が人体に与える影響

堀井大輔(大阪電気通信大学) 竹内早耶香(びわこ学院大学) 豊田一成((社)感覚刺激と脳研究協会)

※PDF版は以下のリンクよりお読みいただけます。
■特殊土壌内で生育の観葉植物が人体に与える影響 ・堀井大輔(大阪電気通信大学)・竹内早耶香(びわこ学院大学)・豊田一成((社)感覚刺激と脳研究協会) 2017/12/24

1.はじめに

近年の室内環境研究では,生活スタイルの変化に伴って発生する健康への影響や,快適な室内空間の構築に関する研究が増加してきている1).ここで取り上げられている問題は,室内汚染,化学物質の濃度や測定方法,温熱,換気,空調,クリーンルームの設備関連などである.とくに,室内に置かれた植物が人の心理と生理にもたらす影響は,オフィス環境を端緒として,医療環境や教育環境など様々な空間を想定して,探求されている2).たとえば,室内に置かれた身近な植物が人々の心身にポジティブな影響を及ぼすことは,これまでの実験的研究によって明らかにされている2).
これらの結果は,室内環境・植物が人間の心身に影響を及ぼすメカニズムの解明のための一つの方向性を示しているが,今後も引き続き研究結果を蓄積していくことは必要不可欠だと考えられる.

そこで本研究では,特殊処理を施した土と水(商品名:岩森力)を使用した土壌に埋め込まれた観葉植物が,身体にどのような影響を及ぼすのかを調べるため,安静時と経過5分後・15分後の自律神経活動の変動と唾液α-アミラーゼ,脳波を測定して,おもに15分後の数値を検討することとした.

2.方法

1)実験対象者
本実験内容を説明し,協力に同意が得られたA大学の運動部に在籍する男子学生20名(平均年齢19.28±0.57歳)を対象とした.彼らは継続してスポーツ活動をしている健康な大学生であった.

2)実施時期・場所および手続き
2017年3月,アイアイリゾートにおいて,室内の中央へ椅子を置き,A室の四隅には特殊処理を施した土と水(商品名:岩森力)を使用した土壌に埋め込まれた観葉植物を設置し(素材あり群),B室の四隅には一般の土壌に埋め込まれた観葉植物を設置した(素材なし群).

実験場所への入室前に通常時の状態を測定(測定3分~5分)した後,椅子の置かれた部屋へ入室して着座し,何もない部屋で開眼のまま安静状態を確保し,着座5分後に1回目の測定,15分後に2回目の測定を行った.
実験対象者には,A室とB室の違いを伝えずに両方で同じ時間だけ過ごし,その後同様の測定を実施した.なお,順序効果による影響を考慮して,A室とB室の実施順序については,実験対象者間でカウンターバランスがとられた.A室(およびB室)の測定後に,1時間の十分な休息を挟んでからB室(およびA室)の測定を行った.

3)測定項目
(1)指尖脈波
指尖脈波からの自律神経活動について,心拍変動はPulse Analyzer Plus(TAS9:株式会社YKC製)を用いて心拍数を求めるとともに,周波数解析から高周波成分(HF,0.15~0.4 Hz),低周波成分(LF,0.04~0.15 Hz),成分比(LF/HF)等を算出し検討する.
(2)唾液α-アミラーゼ
 乾式臨床化学分析装置・唾液アミラーゼモニター(ニプロ株式会社製)を用いて,唾液アミラーゼ活性について,1分間に1μmolのマルトースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位(U)として測定し検討する.
(3)脳波測定
 脳波は,簡易脳波計covo(株式会社エス・エス・アイ社製)により前頭部の左右から抽出し(スレッショールド値Low,アーチファクト値High設定),波形を単純加算平均して数量化されたものをα波(7~14Hz)・β波(14~30Hz)・θ波(4~7Hz)に分類して処理する.

4)分析
本研究では,TAS9で測定できるパラメーターのうち心拍変動の時間領域分析により心拍数(HR:Heart Rate)と,周波数領域分析により総自律神経活動(TP:Total Power),高周波数成分(HF:High Frequency),LF/HF比を自律神経機能の評価値として検討を行った.なお,分析には対数変換された値(Ln値)を用いた.
簡易脳波計による脳波の測定結果については,左右と帯域ごとにα,β,θに分類し検討する.
まず全体的傾向を知るために,事前(安静時)・事後(15分後)の測定値を比較する.次に,個人内の変化が素材の有無によるものなのかを検討するため,事前・事後の測定値の変化パターンを素材あり群と素材なし群とで比較する.この比較について,生理指標となる自律神経活動や唾液αアミラーゼは,個体差が大きいことから安静時を基準とした比率(安静時÷15分後)を用いて行う.安静時を個人ごとのベースラインと捉え,15分後の測定値にどの程度の変化が生じたのかを検討する.
なお,データの集計と分析にはエクセル統計2015を用い,外れ値検定の結果から採用されたデータについて,その後のt検定と分散分析を行った(有意水準p<0.05).

3.結果

1)自律神経活動動態
実験対象者の指尖脈波からの心拍変動を自律神経活動動態として評価した.
実験対象者の心拍数(HR),総自律神経活動(LnTP),高周波数成分(LnHF)を測定し,交感神経活動指標(Ln(LF/HF))を求めた結果を表1に示した.

実験群の心拍数(HR)は, 素材あり群で安静時65.63±10.63に比べて15分後は63.39±9.17へ減少し,素材なし群で安静時65.76±9.23に比べて15分後は66.49±7.84へ増加していた.(表1)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群で効果量中(d>=0.5),素材なし群では効果量小であった(d>=0.2).(表1)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった(表2).しかし,表1と図1のように素材あり群では15分後に減少がみられることから,心拍の安定傾向が伺える.

心拍変動の周波数分析から求められた総自律神経活動(LnTP)は,素材あり群で安静時7.55±0.58に比べて15分後は7.54±0.67へ減少し,素材なし群で安静時7.47±0.64に比べて15分後は7.39±0.63へ減少していた.(表1)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいて,素材あり群では効果量ほとんどなし(d<0.2),素材なし群では効果量小であった(d>=0.2).(表1)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表2)(図2)

副交感神経活動指標とされるLnHF値は,素材あり群で安静時6.30±1.01に比べて15分後は6.20±1.10へ減少し,素材なし群で安静時6.24±1.16に比べて15分後は6.05±0.95へ減少していた.(表1)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群で効果量はほとんどみられず(d<0.2),素材なし群では効果量小(d>=0.2)であった.(表1)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表2)(図3)

交感神経活動指標とされるLn(LF/HF)値については,素材あり群で安静時1.04±0.15に比べて15分後は1.06±0.15へ増加し,素材なし群で安静時1.00±0.19に比べて15分後は1.04±0.14へ増加していた.(表1)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群と素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群では効果量小(d>=0.2),素材なし群では効果量中(d>=0.5)であった.(表1)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表2)(図4)






2)唾液αアミラーゼの変化(表3,4.図5)
ストレスの大きさの指標とされる唾液α-アミラーゼの値を測定して分析する.
素材あり群で安静時22.11±12.97に比べて15分後は12.50±11.14へ減少し,素材なし群で安静時17.33±13.90に比べて15分後は13.06±9.50へ減少していた.(表3)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群では効果量中(d>=0.5)であり,素材なし群では効果量小(d>=0.2)であった.(表3)
 なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった(表4).しかし,表3や図5のように素材あり群では減少がみられることから,安静時から15分後に向かってストレス軽減の傾向が伺える.

消化酵素のひとつである唾液アミラーゼ(唾液中のα-アミラーゼ)は,刺激に対する交感神経興奮状態の強さ度の目安になる指標である.交感神経が刺激され興奮状態になると,神経作用により唾液アミラーゼが分泌され,より高い興奮状態になると活性値が高まると考えられる.
有意差のみられなかったことについては,素材の有無や経過時間によって,測定値が上昇した被験者と低下した被験者とが混在している可能性が考えられる.
とくに,表3と図5では,全体の平均値の時間経過よりも変化率の平均の方が大きくなる現象もみられた(表の数値と図の変化が逆になっている).



3)脳波の変化(表5,6.図6〜図11)
簡易脳波計による測定の結果,全体的な傾向をみるために測定値での平均を比較する.

脳波(左)α波では,素材あり群で安静時6.36±3.45に比べて15分後は4.55±0.50へ減少し,素材なし群で安静時7.53±4.02に比べて15分後は5.13±1.82へ減少していた.(表5)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群・素材なし群ともに効果量中(d>=0.5)であった.(表5)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表6)(図6)

脳波(左)β波では,素材あり群で安静時11.30±3.26に比べて15分後は11.19±0.42へ減少し,素材なし群で安静時11.68±2.71に比べて15分後は11.81±1.18へ増加していた.(表5)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群・素材なし群ともに効果量小(d>=0.2)であった.(表5)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表6)(図7)

脳波(左)θ波では,素材あり群で安静時8.49±1.08に比べて15分後は8.18±0.11へ減少し,素材なし群で安静時9.76±2.86に比べて15分後は8.32±0.35へ減少していた.(表5)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群では効果量小(d>=0.2),素材なし群では効果量中(d>=0.5)であった.(表5)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表6)(図8)

脳波(右)α波では,素材あり群で安静時5.51±1.50に比べて15分後は5.23±1.71へ減少し,素材なし群で安静時6.55±2.36に比べて15分後は5.34±1.48へ減少していた.(表5)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群では効果量はほとんどみられず(d<0.2),素材なし群では効果量小(d>=0.2)であった.(表5)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表6)(図9)

脳波(右)β波では,素材あり群で安静時11.06±0.90に比べて15分後は11.09±0.31へ減少し,素材なし群で安静時11.81±2.33に比べて15分後は11.53±0.90へ増加していた.(表5)
安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群・素材なし群の両群とも効果量はほとんどみられなかった(d<0.2).(表5) なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表6)(図10) 脳波(右)θ波では,素材あり群で安静時8.41±0.77に比べて15分後は8.44±1.23へ増加し,素材なし群で安静時9.22±2.56に比べて15分後は8.16±0.24へ減少していた.(表5) 安静時を1とした変化率についてt検定(両側検定)を実施した結果,素材あり群・素材なし群の両群とも有意差はみられなかった.また,効果の大きさをみる指標としてのCohen’s dにおいては,素材あり群では効果量はほとんどみられず(d<0.2),素材なし群では効果量中(d>=0.5)であった.(表5)
なお,実測値での二元配置分散分析(実験群×経過時間)の結果からは,交互作用はみられなかった.(表6)(図11)



4.まとめ

運動部に所属する大学生を対象として,素材の有無による影響の違いについて検討した結果, 自律神経活動について,安静時から5分経過の様子も踏まえて15分後の値をみると,素材あり群においてHR値は減少し,LnTP値とLnHF値では上昇傾向がみられた.つまり,心拍数(HR)が減少し,総自律神経活動(LnTP)と副交感神経活動(LnHF)が高められた(5分後~15分後を比較)ことから,副交感神経活動の上昇による精神的リラックス作用が考えられた.
また,入室から15分後にアミラーゼが減少していたことから,交感神経興奮作用の抑制やストレス軽減の傾向が推察された.
さらに脳波では,安静時から5分経過の様子も踏まえて15分後の値をみると,5分後ではα波をはじめとする脳波全体に増加がみられるものの,時間経過とともに減少傾向が示され,脳波の安定傾向が認められたものと考えられた.
一方で,本実験において素材の有無や経過時間によって,測定値が上昇した被験者と低下した被験者とが混在していた.このことは,被験者の観葉植物そのものに対する受け止め方の違いや,観葉植物を鑑賞すること自体による影響の可能性が考えられた.

付記
本研究は,(株)プラスワン テクノロジーから研究助成を受けて行われた.

5.参考文献

1)嵐谷 奎一・秋山 幸雄・欅田 尚樹(2009) 室内環境に関する研究. 室内環境,Vol.12 No.2:71-86.
2)長谷川 祥子・下村 孝(2013) 室内の植物が人間の心身に及ぼす影響に関わる研究の現状と今後の課題. 日本緑化工学会誌,Vol.39 No.44:552-560.
3)李 宙営・朴 範鎮・恒次 祐子・香川 隆英・宮崎 良文(2011)  森林セラピーの生理的リラックス効果―4箇所でのフィールド実験の結果―. 日本衛生学雑誌,Vol.66 No.4:663-669.
4)中野 敦行・山口 昌樹(2011) 唾液アミラーゼによるストレスの評価.  バイオフィードバック研究,Vol. 38No.1:3-9.
5)小川 晴久・中村 誠・福田 弥生・柴原 数雄・西垣 康広・伊藤 国億・成瀬 哲哉・藤巻 吾朗・松井 永子・折居 建治・近藤 直実(2009) 調湿建材の使用が室内環境及び人体に与える影響調査に関する研究. 室内環境,Vol.12 No.2:125-131.
6)山口 昌樹・金森 貴裕・金丸 正史・水野 康文・吉田 博(2001)  唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指標になり得るか.  医用電子と生体工学, Vol.39 No.3:234-239.